学校・いじめ問題

いじめ防止対策推進法をわかりやすく解説|保護者が知っておくべき全知識

「学校に相談したのに、動いてくれない」「これはいじめに当たるのか、法律的にどうなの?」——そんな不安を抱えたとき、手元に置いておきたいのがいじめ防止対策推進法の知識です。

こども六法スクール プロデューサー
山﨑 聡一郎
2026.05.14

この記事でわかること

  • いじめ防止対策推進法が「いじめ」をどのように定義しているか
  • 学校・教育委員会がしなければならないこと(対応義務)
  • 「重大事態」とは何か、学校はどう動かなければならないか
  • お子さんがいじめを受けたとき、保護者がこの法律を使ってできること
  • 子どもにこの法律をどう伝えるか

「学校に相談したのに、動いてくれない」「これはいじめに当たるのか、法律的にどうなの?」——そんな不安を抱えたとき、手元に置いておきたいのがいじめ防止対策推進法の知識です。

2013年に成立したこの法律は、学校・教育委員会・国・地方自治体それぞれの役割と義務を定めています。 知っているだけで、子どもを守るための行動が変わります。

この記事では、難しい法律の条文を、保護者の方が実際に使える知識としてわかりやすく解説します。


いじめ防止対策推進法とは?成立した背景

いじめ防止対策推進法は、2013年6月に成立し、同年9月に施行された法律です。

それ以前も、いじめは社会問題として認識されていました。しかし、学校や教育委員会が「いじめかどうかの判断」を曖昧にしたり、対応を先送りにするケースが後を絶ちませんでした。その背景には、いじめを認定すると学校の評価が下がるという現実的な問題もありました。

この状況を変えるために、「いじめは社会全体で取り組む問題である」という理念を法律として明文化したのが、いじめ防止対策推進法です。学校・教育委員会・国・地方自治体・保護者それぞれの責務が明確に定められました。

この法律が生まれた理由

2011年、滋賀県大津市で中学生がいじめを苦にして自ら命を絶つという痛ましい事件が起きました。その後の調査で、学校や教育委員会が事実を隠蔽していたことが明らかになりました。 この事件が、法律制定を強く後押ししました。

子どもたちを守るためのルールを、曖昧な「学校の裁量」に任せるのではなく、法律として国全体で共有する——それがこの法律の出発点です。

法律の「いじめ」の定義

この法律では、いじめを次のように定義しています。

児童等に対して、当該児童等が在籍する学校に在籍している等当該児童等と一定の人的関係にある他の児童等が行う心理的又は物理的な影響を与える行為(インターネットを通じて行われるものを含む。)であって、当該行為の対象となった児童等が心身の苦痛を感じているもの

出典:いじめ防止対策推進法(文部科学省)

条文は難しく見えますが、重要なポイントは3つです。

ポイント 内容
①誰が行うか 同じ学校に在籍する、一定の人間関係がある相手
②どんな行為か 心理的・物理的に影響を与える行為(ネット上も含む)
③判断基準 被害を受けた子どもが「心身の苦痛を感じているか」

特に重要なのが③です。加害者に「いじめの意図があったかどうか」は関係ありません。 被害を受けた子どもが苦痛を感じていれば、法律上の「いじめ」に当たります。「ふざけていただけ」は法的な免責理由になりません。


学校・教育委員会がしなければならないこと

いじめ防止対策推進法が定める義務の中心は、学校と教育委員会です。「努力する」ではなく、「しなければならない」義務として規定されています。

学校の対応義務

学校には、大きく分けて4つの義務があります。

1. いじめ対策組織の設置 複数の教職員・スクールカウンセラーなど心理・福祉の専門家を含む組織を、学校内に設けることが義務付けられています。「担任の先生一人で対応する」体制では、法律の要件を満たしていません。

2. 定期的な調査の実施 アンケートなど、定期的にいじめの実態を把握するための調査をしなければなりません。「何もなかった」ではなく、積極的に把握する義務。

3. いじめを確認した場合の対応 いじめが確認されたら、被害を受けた子どもとその保護者への支援、加害した子どもへの指導と保護者への助言を、組織として行うことが義務です。

4. 犯罪行為への対応 暴行・恐喝など、犯罪に当たるいじめについては、学校は警察と連携することが定められています。

教育委員会の役割

教育委員会は、学校の取り組みを支援・指導する立場です。

学校だけでは解決が難しい重大なケース、または学校が適切に対応していないと疑われるケースでは、教育委員会が直接関与します。 いじめ問題対策連絡協議会(学校・教育委員会・警察・児童相談所などが連携する組織)の設置も、法律で認められています。


「重大事態」とは何か・どう対処されるか

923
2022年度に学校が認知した重大事態の数(文部科学省調査・過去最多)
2022年度に学校が認知した重大事態は923件と、過去最多を記録しました(文部科学省調査)。 いじめ防止対策推進法では、特に深刻ないじめを「重大事態」として、厳格な調査を義務付けています。

重大事態には、次の2種類があります。

種類 定義
生命・心身・財産への重大被害 子どもが自殺を企図した、入院が必要なケガをしたなど
相当期間の欠席を余儀なくされる いじめを理由に年間30日以上欠席している

重大事態と認定された場合、学校・学校設置者は速やかに調査を開始しなければなりません。 調査結果は被害を受けた子どもと保護者に提供されます。

保護者として覚えておきたいのは、「重大事態かどうか」の判断を学校に任せなくてよいということです。保護者や子ども自身が「重大事態に当たる」と申し出ることができます。


保護者がこの法律を使ってできること

「法律があっても、実際に何ができるのか」——それが一番知りたいことだと思います。

お子さんがいじめを受けたときの手順

1
学校に事実確認を求める
保護者は正式に申し入れる権利があります
2
学校の対応を記録する
日時・内容・担当者名をメモに残す
3
教育委員会に相談する
学校が動かない場合の上位機関
4
第三者機関を活用する
法務局「子どもの人権110番」・24時間SOSダイヤル
ステップ1: 学校に事実確認を求める いじめ防止対策推進法に基づき、保護者は学校に対して事実確認を求めることができます。 「いじめがあったかどうか調べてください」と正式に申し入れる権利があります。

ステップ2: 学校の対応を記録する 学校がいつ・どんな対応をしたかを記録しておきましょう。日時・内容・担当者名を記録することが、後の交渉で重要な根拠になります。

ステップ3: 教育委員会に相談する 学校が動かない、または対応が不十分だと感じたら、教育委員会に相談できます。学校の上位機関として、指導・介入する立場にあります。

ステップ4: 第三者機関を活用する 法務局の「子どもの人権110番」(0120-007-110)や、文部科学省の「24時間子供SOSダイヤル」(0120-0-78310)に相談できます。無料で利用可能。

学校が動かないときの次の一手

学校や教育委員会が適切に対応しない場合、次の選択肢があります。

  • 都道府県の教育委員会に申し入れる(市区町村の教育委員会の上位機関)
  • 文部科学省の相談窓口に連絡する
  • 弁護士に相談する(法的な手続きを検討する場合)

大切なのは、「学校の判断を待つだけ」ではなく、保護者として能動的に動く権利があるということです。この法律は、そのための根拠を与えてくれます。


ネットいじめ・SNSいじめにも適用される

いじめ防止対策推進法は、インターネットを通じたいじめにも明確に適用されます。

SNSでの誹謗中傷、グループラインからの除外、写真や動画の無断拡散——これらはすべて、法律上の「いじめ」に当たる可能性があります。

ネットいじめの深刻な点は、被害が24時間365日続き、拡散するという特性にあります。学校の外でも続くため、「学校の問題ではない」と言い逃れをする学校も存在しました。しかし、この法律は学校外で起きたネットいじめについても、学校が対応すべき問題として位置づけています。

お子さんのスマートフォンのトラブルは、「家庭内の問題」として抱え込まずに、学校と共有することが重要です。

こども六法の活動を通じて保護者の方々と話す中で、「ネットのトラブルは学校には関係ないと思い込んでいた」という声を多く聞きます。法律上は学校の対応義務が明確にあります。知識が行動を変えます。


子どもにどう伝えるか|こども六法流の解説

法律の知識は、大人だけが持つものではありません。子ども自身が「自分には守られる権利がある」と知ることが、いじめへの対抗力になります。

こども六法では、難しい法律を子どもが自分で読めるやさしい言葉に届ける活動を続けています。この法律を子どもに伝えるとしたら、こんな言葉になります。

「いじめを受けて、つらい・苦しいと感じたら、それはいじめです。あなたが弱いからではありません。学校の先生には、あなたを守る義務があります。先生が動いてくれなかったら、教育委員会というところに相談できます。あなたには、助けを求める権利があります。」

子どもが「自分には助けを求めてよい」と知っているだけで、SOSを出すハードルが下がります。 実際に、こども六法を通じて法律を学んだ子どもたちの保護者から「子どもが自分から先生に相談できるようになった」という声を届けていただいています。

ぜひ、この記事を読んだ後でお子さんと一緒に話してみてください。「もし困ったことがあったら、お父さん・お母さんに教えてね」という一言に加えて、「先生にも言える」「学校以外にも相談できる場所がある」と伝えることが、子どもを守る第一歩になります。

法律の知識が、子どもたちの「知る力」を育てます。


よくある質問

Q1. いじめ防止対策推進法には罰則規定がありますか?

A. 加害者である子どもへの直接的な罰則規定はありません。 ただし、暴行・脅迫・窃盗など刑事事件に当たる行為については、別の法律(刑法・少年法等)が適用されます。学校関係者が適切な対応を怠った場合も、民事上の責任が生じる可能性があります。

Q2. 先生が「これはいじめではない」と言ったらどうすればよいですか?

A. 法律の定義(被害を受けた子どもが心身の苦痛を感じているかどうか)を根拠に、「私の子どもは苦痛を感じています」と申し入れることができます。学校の判断に納得できない場合は、教育委員会への相談が次のステップです。

Q3. 教育委員会への相談は、学校に知られますか?

A. 一般的に、教育委員会は学校に相談内容を共有することがあります。学校との関係を壊したくない場合は、法務局や弁護士など第三者機関への相談も検討してください。

Q4. いじめを受けた証拠はどうやって集めればよいですか?

A. LINEやSNSのスクリーンショット、日時と出来事を記録した日記、体のケガがある場合は写真と診断書が有効です。「何日に何があったか」を記録する習慣をつけることが大切です。

Q5. いじめ防止対策推進法は私立学校にも適用されますか?

A. はい、適用されます。 国公立・私立を問わず、すべての小学校・中学校・高校・高専に適用されます。


まとめ

いじめ防止対策推進法は、子どもを守るための法律です。ポイントの整理。

  • いじめの定義: 被害を受けた子どもが「心身の苦痛を感じているか」が判断基準
  • 学校の義務: 組織的な対応・定期調査・被害者支援が法律で義務付けられている
  • 重大事態: 年間30日以上の欠席・自殺企図等は調査が義務化(2022年度923件)
  • 保護者の権利: 事実確認の申し入れ・教育委員会への相談が認められている
  • ネットいじめ: インターネット上のいじめにも同法が適用される

法律を知っておくことで、「学校に任せるしかない」という無力感から抜け出せます。子どもと一緒に、「助けを求めてよい」という知識を共有してください。

こども六法では、これからも子どもたちが法律の知識を身につけるための活動を続けていきます。お子さんの「知る力」を育てるために、ぜひご活用ください。


著者情報
山﨑聡一郎(やまさき そういちろう)
株式会社Art&Arts代表取締役 / こども六法スクール代表
慶應義塾大学総合政策学部、一橋大学大学院社会学研究科をへて、東京大学大学院学際情報学府博士課程在籍。劇団四季「ノートルダムの鐘」に出演するなど、ミュージカル俳優としても活躍。オックスフォード大学に留学し、シアター・イン・エデュケーションを学んだ経験を活かし、こども六法スクールのカリキュラムを設計。『こども六法』ほか、12冊超の児童書を執筆している。

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いじめの定義と判断基準|どこからがいじめ?

「いじめ」という言葉は日常的に使われますが、いじめ防止対策推進法ではその定義が明確に定められています。この法律におけるいじめとは、「児童等に対して、当該児童等が在籍する学校に在籍している等、当該児童等と一定の人間関係にある他の児童等が行う心理的又は物理的な影響を与える行為(インターネットを通じて行われるものを含む。)であって、当該行為の対象となった児童等が心身の苦痛を感じているもの」とされています。

この定義で重要なのは、行為を受けた側が「心身の苦痛を感じているか」という点です。たとえ加害者に悪意がなくても、被害者が苦痛を感じていれば、それは「いじめ」と判断され得ます。また、けんかやふざけ合いのように見える行為でも、一方の児童等が継続的に嫌がっている場合や、特定の児童等だけが繰り返し標的になっている場合は、いじめとみなされる可能性があります。

学校は、いじめの有無を判断する際に、形式的な事実だけでなく、児童等の関係性や背景、被害児童等の心情を丁寧に把握することが求められます。保護者としては、子どもがいじめを受けていると感じた場合、この定義を理解した上で学校に相談し、子どもの苦痛が軽視されないよう働きかけることが重要です。

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