シアターインエデュケーション(TIE)とは?子どもの「伝える力」を育てる演劇教育をわかりやすく解説
「うちの子、自分の気持ちをうまく言葉にできなくて……」「人前で話すのが苦手みたいで、授業でも手を挙げられない」——そんなお悩みを持つ保護者の方は多いのではないでしょうか。

「うちの子、自分の気持ちをうまく言葉にできなくて……」「人前で話すのが苦手みたいで、授業でも手を挙げられない」——そんなお悩みを持つ保護者の方は多いのではないでしょうか。
シアターインエデュケーション(TIE)とは、演劇の力を通じて子どもの思考力・表現力・共感力を育てる、イギリス発祥の体験型教育手法です。 発表会のために台本を暗記する「学芸会」とはまったく異なるアプローチで、プロの俳優と協働しながら「演じることで考える」プロセスを通じて学びを深めます。
この記事では、TIEとは何か・どんな効果があるのか・家庭でできることまで、わかりやすくお伝えします。
シアターインエデュケーション(TIE)とは?
TIEの定義と英国での発祥
シアターインエデュケーション(Theatre in Education、略称:TIE)は、1960年代のイギリス・ベルグレード・シアター(コベントリー)で生まれた演劇教育プログラムです。
プロの俳優・演出家がチームを組んで学校へ出向き、子どもたちと一緒に「演じる」「考える」「議論する」ことで、教科の枠を超えた学びを届けるのが原型です。歴史・社会問題・人権・環境などの複雑なテーマを、体験的に理解させることができるとして、イギリスをはじめ欧米・オーストラリアに広まりました。
現在では「プロの俳優と協働する体験型演劇プログラム」として定義が広がり、学校教育だけでなく、学習塾・ワークショップ・企業研修など幅広い場で活用されています。
「演劇」と「教育」を掛け合わせる理由
TIEの中核にある考え方は、「人間は体験を通じてこそ深く学ぶ」というものです。
テキストを読んで「いじめはいけない」と理解するのと、実際に加害者・被害者・傍観者の立場を演じて「どんな気持ちになるか」を体感するのとでは、学びの深さがまったく異なります。
演劇は「自分ではない誰かを生きる」行為です。この「役を引き受ける体験」が、共感力・想像力・自己表現力を同時に育てます。これがTIEが教育に取り入れられる根本的な理由です。
日本の学芸会・演劇部との決定的な違い
| 学芸会・演劇部 | シアターインエデュケーション | |
|---|---|---|
| 目的 | 発表・披露 | 学びと気づき |
| プロセス | 台本通りに演じる | 即興・議論・体験が中心 |
| 観客 | 保護者・観客に見せる | 参加者自身が当事者 |
| 評価基準 | 上手さ・完成度 | 参加・気づき・思考 |
| 専門家の役割 | 監督・指導 | 共に考えるファシリテーター |
学芸会は「うまく演じること」が目的ですが、TIEは「演じることを通じて考えること」が目的です。だから、演技が得意でない子どもでも安心して参加できます。
TIEで子どもに育つ3つの力
TIEが継続的に注目される理由は、子どもに育てる力が現代社会のニーズと深く合致しているからです。
① 「伝える力」——自分の意見を言語化・表現する
TIEのワークショップでは、正解のない問いに向き合います。「もし自分がその立場だったら、どうする?」「なぜそう思う?」——子どもは自分の考えを言葉にし、身体で表現することを繰り返します。
この「考えて表現する」サイクルが、日常生活での発言力・自己表現力の基盤をつくります。学校の授業で手を挙げられない子が、TIEのワークショップでは積極的に発言するようになるケースは珍しくありません。
② 「受け取る力」——他者の意図を深く理解する
演劇は「他者を演じる」だけでなく、「他者の演技を読み解く」行為でもあります。相手のせりふの裏にある感情・意図・背景を想像することで、共感力と読解力が育ちます。
これはSNSやデジタルコミュニケーションが主流の現代において、ますます重要なスキルです。文字だけのやり取りで誤解が生まれやすい時代に、「相手は何を言いたいのか」を想像する力は、人間関係のあらゆる場面で活きます。
③ 「自己肯定感」——失敗を恐れずチャレンジできる
TIEの場には「正解」がありません。間違えても、うまくできなくても、それ自体がワークショップの素材になります。「失敗してもOK」という安心できる環境で何度も挑戦することで、子どもは自己肯定感と挑戦する姿勢を育てます。
特にプロの俳優がファシリテーターとして参加する場合、子どもたちは「大人のプロがこんなに楽しんでいる」という姿を見て、表現することへの恐れが和らいでいきます。
こども六法スクールでは、法律・情報・演劇の3つで子どもの「選ぶ力」を育てています。
体験授業も受け付けています。
TIEの授業は実際どんなことをするの?
プロの俳優と一緒に「場面」をつくる
TIEの授業で最も特徴的なのが、プロの俳優がファシリテーターとして参加することです。
俳優は「演技を教える先生」ではなく、子どもたちと同じ立場で場面に入り込み、問いを投げかけ、子どもの反応を引き出します。「あなたならどうする?」「その選択の結果、何が起きると思う?」——こうした問いかけを通じて、子どもは主体的に考え、行動します。
プロの存在が場の緊張感を高め、「本物の場」としての体験を生み出すことが、TIEの大きな特徴です。
ロールプレイで「もし自分が〇〇だったら」を体験する
TIEの代表的な手法がロールプレイ(役割演技)です。
たとえば「ある法律が変わったら、社会はどう変わる?」というテーマであれば、子どもたちはそれぞれ「政治家」「市民」「子ども」「企業経営者」などの役を担い、議論を繰り広げます。台本はなく、自分の役の立場から即興で言葉を選びます。
この「違う立場から物事を見る」体験が、多角的思考・批判的思考の土台をつくります。
こども六法スクールでのTIE実践例
こども六法スクールでは、法教育・メディアリテラシー教育とTIEを組み合わせた独自のカリキュラムを実践しています。
たとえば、「もし自分が裁判官だったら」というテーマでのワークショップでは:
- あるトラブルのシナリオをグループで読み込む
- 原告・被告・弁護士・傍聴人などの役を割り当てる
- プロの俳優がファシリテーターとして「裁判長」を演じながら進行
- 子どもたちが自分の言葉で「どう判断するか」を述べ、議論する
このプロセスで、法律的な思考(なぜそのルールが必要か)と、表現力(自分の考えを言語化する力)が同時に育ちます。授業の代表である山﨑聡一郎は、オックスフォード大学へ留学してシアターインエデュケーションを専門的に学び、このカリキュラムを設計しました。
なぜ今の子どもにTIEが必要なのか
STEAM教育の「A(Arts)」との接点
近年、日本でもSTEAM教育(Science・Technology・Engineering・Arts・Mathematics)が注目されています。「A」のArts(芸術・人文的思考)が加わったことで、テクノロジー教育に創造性・表現力・人間的視点を組み込む重要性が認識されるようになりました。
TIEは、このArtsを最も体系的・実践的に教育に取り入れた手法のひとつです。プログラミングやロボット工学と組み合わせることで、「つくる力」と「伝える力」の両輪が育ちます。
主体的・対話的な深い学びとの一致
文部科学省が推進する「主体的・対話的で深い学び(アクティブ・ラーニング)」は、TIEが60年前から実践してきたことと本質的に同じです。
知識を受け取るだけでなく、問い・考え・対話し・表現する——TIEはこのサイクルを演劇という形でデザインします。学校教育の方向性と完全に一致しているにもかかわらず、TIEを実践できる教育機関は日本ではまだ非常に少ないのが現状です。
AI時代に求められる「人間らしいコミュニケーション」
AIが文章を書き、画像を生成し、情報を整理する時代において、人間に残る最も重要なスキルは「人と人との間でしか生まれないコミュニケーション」です。
表情・声のトーン・空気を読む力・場の感情を動かす力——これらはAIが苦手とする、人間固有の能力です。TIEは、まさにこの「人間らしいコミュニケーション」を体感的に鍛える教育手法といえます。
実際、TIEを体験した子どもたちからは「グループ発表で緊張しなくなった」「相手の気持ちを考えながら話せるようになった」といった変化が報告されています。知識として「人の気持ちを考えましょう」と教えるより、「その人を実際に演じてみる」体験のほうが、子どもの内側に深く刻まれるのです。テクノロジーが進化すればするほど、こうした人間的な感受性・表現力の価値は高まっていきます。
家庭でできるTIEアプローチ3選
TIEの専門的なワークショップは教育機関で受けるものですが、その考え方を家庭でも取り入れることはできます。
STEP 1|「もしも」の問いで会話する
夕食の会話などで「もし学校のルールをひとつ変えていいとしたら?」「もし自分が総理大臣だったら最初に何をする?」など、正解のない問いを投げかけましょう。子どもが「なぜそう思う?」と聞き返されることで、自分の考えを整理する力が育ちます。
STEP 2|気持ちを「役」で語ってみる
喧嘩や悩みを話し合うとき、「あなたはどう思った?」ではなく「もしあなたが相手の立場だったら、何を思う?」と問いかけてみます。TIEの「他者の立場を生きる」アプローチを家庭の対話に取り入れることで、共感力と問題解決力が育まれます。
STEP 3|読み聞かせに「間」と「問い」を入れる
絵本や本の読み聞かせで、場面の途中で「この子はどんな気持ちだと思う?」「次にどうなると思う?」と立ち止まって聞いてみましょう。予測・感情理解・言語化という、TIEの基本スキルが自然に鍛えられます。
家庭でのアプローチを学んだら、次はプロと一緒に実践してみませんか?
こども六法スクールでは体験授業を受け付けています。
よくある質問
Q. シアターインエデュケーションは何歳から始めるのがよいですか?
A. TIEは3歳からでも取り組める手法ですが、「言葉で考えを伝える」「他者の立場を想像する」という認知能力が育つ小学校低学年(6〜8歳)以降に特に効果的です。こども六法スクールでは小学校高学年〜中学生を主な対象としており、この時期に抽象的なテーマを扱えるようになるため、学びの深さが増します。
Q. 演劇が苦手・人見知りな子でも大丈夫ですか?
A. むしろTIEは、人前が苦手な子にこそ効果的な手法です。「役を演じる」という設定があることで、自分自身をさらけ出すプレッシャーが減り、発言しやすくなります。「うまくやる必要はない」「間違えてもOK」という場づくりが前提にあるため、内向的な子どもほど変化が現れやすいと言われています。
Q. 学校の授業でも取り入れられていますか?
A. 道徳・国語・社会の授業でロールプレイが取り入れられることはありますが、専門的なTIEプログラムを実施している学校は日本ではまだ少数です。イギリスやオーストラリアでは学校教育への正規導入が進んでいる一方、日本では民間の教育機関・ワークショップが先行して実践しています。
Q. TIEで身につく力は受験や将来に役立ちますか?
A. 直接的な受験対策ではありませんが、TIEで育つ「論理的に考えて言語化する力」「相手の立場を理解する力」は、小論文・面接・グループワークなど、現代の入試や就職活動で求められるスキルと重なります。また、社会に出てからの対人関係・プレゼンテーション・チームワークにおいても、長期的な効果が期待できます。
Q. こども六法スクールではどのようにTIEを教えていますか?
A. こども六法スクールでは、法教育・メディアリテラシー教育とTIEを組み合わせた独自カリキュラムを実施しています。代表の山﨑聡一郎がオックスフォード大学でTIEを専門的に学んだ経験をもとに設計したプログラムで、プロの俳優・演出家と協働しながら「伝える力」「受け取る力」「選ぶ力」を育てます。対面(東京都板橋区)・オンラインの両方で体験授業を受け付けています。
まとめ
シアターインエデュケーション(TIE)とは、演劇の力を通じて子どもの「伝える力・受け取る力・自己肯定感」を育てる、1960年代イギリス発祥の体験型教育手法です。 台本を覚えて披露する学芸会とは異なり、プロの俳優とともに「演じながら考える」プロセスそのものが学びになります。
- 学芸会・演劇部とは根本的に異なる「演じることで考える」アプローチ
- プロの俳優と協働することで、本物の体験的学習が生まれる
- STEAM教育・主体的な学びとも深く接続する現代的な教育メソッド
- 演技が苦手・人見知りな子どもにも効果的
AI時代に「人間らしいコミュニケーション力」がますます重要になるなか、TIEは子どもが自分の可能性を広げるための強力なツールです。
株式会社Art&Arts 代表取締役 / こども六法スクール代表
慶應義塾大学総合政策学部、一橋大学大学院社会学研究科をへて、東京大学大学院学際情報学府博士課程在籍。オックスフォード大学へ留学しシアターインエデュケーションを専門的に学んだ経験を活かし、こども六法スクールのカリキュラムを設計。劇団四季「ノートルダムの鐘」に出演するなど、ミュージカル俳優としても活躍。『こども六法』ほか、12冊超の児童書を執筆している。
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